イエローエンジェル。このNPO法人は2003年に創設された。
理事長は宗次徳二氏でカレーで有名なCoCo壱番屋の創業者でもある。2007年には私財を投じて名古屋市にクラシック音楽普及を目的とした演奏会場宗次ホールを建設した。
氏は高価なストラディバリウスを所有し、才能あるヴァイオリニストに無償で貸与したり、若手音楽家の育成にも尽力している。
更に2021年には隈研吾設計による斬新なデザイン性を有する桐朋宗次ホールを桐朋学園大学に完成させた。
2018年六本木ヒルズでストラディバリウスの展示、演奏という稀に見る催しがなされた。
私は期間中２度会場に脚を運び、各々展示されていたストラディバリウスによる演奏を聴いた。展示ヴァイオリン中、サン・ロレンツォ、グレヴィル・アダムス・クライスラー、ダ・ヴィンチ、ヴィオッティ等多くが宗次コレクションからの提供であった。この時私は初めて宗次コレクションというものを知った。
宗次氏は石川県に生まれたようだが、生後直ぐに兵庫県内の孤児院に預けられた。故に実の両親は不明であるという。
3歳の時雑貨商を営む養父母である宗次家に引き取られた。極貧の不安定な生活であり、養父は少しでも金が入ると直ぐギャンブルに走ることから苛酷な生活環境は弥増した。
その上養父は気に入らないと養母を打擲する等暴力行為もあったことから養母はこれに堪え切れず出奔し行方知れずとなった。
暫くは養父と共に暮らしたが、数年を経て養母の居所が判明した後は養父と共にそこに転がり込んだ。
しかし養父の暴力行為は止まず養母は再び家を出た。徳二氏は養父が死ぬまでの期間、筆舌に尽くしがたい辛酸を嘗めた。廃墟を転々とし、電気、水道は止められ、夜は蝋燭の灯で暮らし、食料も無いため雑草を喰らい命を繋ぐこともあった。養父に言われるままパチンコ店のシケモク(煙草の吸殻)を集めるのが日課で、さぼると養父に叩かれた。集められたシケモクを養父は煙管に詰めて吸っていたという。凡そ人間的生活とは掛け離れた少年時代を送った徳二氏であったが氏は生活とはこのようなものであり特に苦労だとは思わなかったという。職安で給付された年末一時金で養父が買ってくれた林檎の美味しさは忘れられないとも語っている。養父の病没後は養母に引き取られてアルバイトをしながら愛知県の高校を卒業した。
クラシック音楽に親しんだのは高校生の時に聴いたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲に深い感銘を受けたことによる。
高卒後不動産会社に就職、3年後に大和ハウス名古屋支店に転職した。妻と知り合ったのはこの大和ハウスに勤務していた時だった。
結婚2年後の1973年独立して不動産業を営むが安定せず、日銭を得られる喫茶店でもやろうかと想い起ち不動産業の傍ら喫茶店営業を始めた。２店舗目の喫茶店で客に提供した妻自作のカレーが評判となり客数が増えていった。これがCoCo壱番屋の原点となった。
1978年(昭和53)カレー専門店、カレーならここが一番として、CoCo壱番屋を立ち上げた。20年後の1998年500店舗達成を機に社長の座を妻と交代し、自らは会長となった。
創業以来徳二氏は決して表に出ることはせず、朝4時起きし、掃除をし、一人の友人も作らず、1000通に及ぶお客様アンケートを読み、ひたすら店舗の経営に勤しんだ。
2002年徳二氏53歳の時、パートタイマーで入社した社員に社長職を譲り、自らは役員を返上、経営には一切口出しせず、創業者特別顧問となった。この時は800店舗になっていた。グローバル展開を見据えて2015年ハウス食品の傘下となり、持株全てを手放した。
現在も4時起きし、宗次ホール周辺の清掃、花壇の手入れ、入場者の客席への案内、事務等を日課としている。
2022年・6月、氏が2007年から所有していたストラディバリウスの一つであり、弦楽器専門の競売会社タリシオにてオークションに掛けられていた1714年製ダ・ヴィンチ・エクス・ザイデルが1534万ドル(日本円にして20億円)で落札され話題を呼んだ。これはタリシオによる競売ではストラディバリウスとして2011年、1590万ドルで落札されたレディ・ブラント(英国の放浪と情熱の詩人バイロンの孫娘レディ・アン・ブラントが所有していたことから名付けられたと云う)に次ぐ史上2番目の高額であった。
尚これ迄のヴァイオリン最高取引額は2012年のグァルネリ・デル・ジェスの1741年製ヴュータン(作曲家でヴァイオリニストでもあるアンリ・ヴュータンが使用していたことからこの名がある)で落札額は1600~1800万ドルと云われている。
４年前に実際に我が目で見たヴァイオリン、只それだけのことであるが、その器がある程度予想されていた金額とはいえ、そのような高値で落札されたというニュースには少なからぬ関心と感慨を持った。
#イエローエンジェル #宗次徳二
