写真は東大弥生門
正面は工学部3号館
不忍通りを根津方面に向かい歩き、東天紅の手前を左に曲がると無縁坂がある。森鴎外の雁という小説で主人公の友人岡田は主人公と同じ医科大学(現東大附属病院)がある鉄門近くの下宿に住んでいた。
この下宿を出て無縁坂を下り不忍池を周り上野の森を歩いて帰って来る散歩をほゞ毎日定刻通り繰り返していた。
右手には岩崎邸(現在は東京都所有)がある。
美男子の岡田がその無縁坂沿い岩崎邸の
向かいに住む高利貸の囲われ女に惚れらるという淡い恋の物語である。女は岡田を好ましく思い散歩する彼を窓から見ていた。
気が付いた岡田も帽子を取り、女に挨拶するようになる。美しい女の顔は紅に染まる。
ふとした事件で一度だけ言葉を交わすが
言葉を交わすのはそれ切りである。
岡田がドイツに留学することが決まる直前
岡田と主人公がやはり無縁坂を下りて行くと
じっと岡田を見つめる女の姿があった。
数日後主人公が学校から帰ると岡田の姿は既になかった。留学へ旅立ったのである。
女は去る事件のお礼を言うことも出来ず、
岡田とは窓の格子を通した覚束無い不言の交際のまま終わる。
無縁坂を通り思い出した小説である。
医学博士、軍医総監でもあった。
この権威か陸軍、海軍の脚気騒動を
引き起こすのだが...
左に入ると暗闇坂がある。麻布十番にも同じ坂名があり他にも20件程あるらしい。
緩やかな坂の途中には弥生美術館や竹久夢二美術館があり、この地から根津にかけての
崖際に縄文とは異なる土器が出土したことからそれ等は弥生式土器と名付けられた。
本郷側には上写真の弥生門があり東大
本郷キャンパスとなる。
突き当たるがこの少し高くなった丘陵地を
向ヶ岡といい、かって旧制一高寮があった。
「清き心と益良雄が剣と筆とをとり持ちて
一度立たば何事か人生の偉業ならざらん...
向ヶ岡にそそり立つ五寮の健児
意気高し...」
日本男子が尚武の心意気に満ちていた頃の
遠い昔の話である。