オプジーボとノーベル生理学・医学賞

   またしても倦怠感が続いているが

   Xは1昨日から気分は高揚している。

本庶佑博士がノーベル生理学・医学賞

受賞したからだ。

以前抗体多様性の謎を解明した利根川博士の

業績についてブログで述べたことがあるが

免疫学は更に進化し、本庶博士はIgMの定常

領域の配列が変化することで抗体遺伝子が成熟するクラススイッチという現象と可変領域

の更なる多様性を齎らす体細胞超変異と

いう現象を見出だした。

*クラススイッチ

    B細胞は未熟B細胞→成熟B細胞→形質細胞

    と分化する。B細胞表面にはそれぞれ特異

    的なIgMが存在するがIgMのままではオプ

    ソニン化や中和抗体としての作用は弱い

    ため、目的に応じて抗体オプソニン化の

    高いIgGなど他のクラスに変化する現象

*体細胞超変異

    抗体を産生するB細胞において、抗体の

    多様性を作り出すために免疫グロブリン

    遺伝子の可変領域に高頻度の変異がAID

    によって導入される現象

   AID:Activation-Induced(cytidine)Deaminase

      DNA中のシチジンからアミノ基を取り

      除く、抗体の多様化に関連する酵素

 

さて今回ノーベル賞を受賞する元となったオプジーボは1992年本庶研究室の大学院生が

アポトーシス(細胞死)を起こす物質を探していたときに発見し、

それをPD-1(Programmed-cell-death-1)と命名したことに遡る。

本庶博士はこの物質が活性化した免疫細胞に広く発現し、免疫応答を抑制する機能(免疫チェックポイント)を持つことを突き止めた。

 

従ってこのPD-1を阻害すれば免疫細胞

本来の機能を発揮させ、ガン細胞の増殖を

抑制させることが出来ると考えた。

ヒトの正常細胞が変異したガン細胞は元々

免疫T細胞の攻撃を逃れる術を持っている。

その後ガン細胞表面にPD-1のリガンドであるPD-L1、PD-L2が発現していることが見出だされ、これ等の物質がPD-1と特異的に結合し、この結合によりT細胞の攻撃を逃れ増殖していることが解った。PD-1に蓋を被せればリガンドが結合出来ず、免疫細胞は本来の活性を取り戻しガン細胞を叩くことが出来るという理論からオプジーボが開発された。

1994年当時製剤化を目指して、小野薬品始め他の製薬会社や医師に働き掛けたが免疫抑制剤は効果が期待出来ないとして日本では製剤化に総じて否定的であった。

本庶博士は米国のベンチャー企業メダレックス社に持ち掛けると、当会社がヒト抗体作成技術を持っており、PD-1抗体を臨床応用することを考えていることを知った。

博士は恩師の頃から関係のあった小野薬品に

このことを話したところ、小野薬品は製剤化を決定しメダレックス(現BMS)との共同開発に合意するに至った。

斯くして手術、放射線療法、薬物療法に継ぐ

第4の抗ガン剤治療法(免疫療法)が誕生し、

2014年オプジーボとして世界に先駆け日本で

承認された。当初適応は切除不能なメラノーマのみであったが、以後切除不能な非細胞肺癌にも適応が追加され、現在は腎細胞癌、

ホジキンリンパ腫、胃癌等いずれも難治性、切除不能なガンに適応が拡大されている。

 

オプジーボが非細胞肺癌にも適応が追加

された頃Xはどのような作用機序を持つか

の知見を得、本庶博士が数年後にノーベル賞を受賞するであることを予測し周辺の何人かにそのことを話した。

そして今回その予想が見事に的中し、

今一人ほくそ笑んでいるところである。

 

 

オプジーボジェネリック名はニボルマブという。モノクローナル抗体(蛋白質)である。

モノとは単一の、クローナルは似せたものの

意である。PD-1はこの偽物をキャッチすることでPD-L1或いはPD-L2の結合を防ぐ。

 同様な作用機序を持つ薬剤キイトルーダ

(ペムブロリズマブ)も上市されている。

キイトルーダはヒト化抗体(90%がヒト抗体)

オプジーボはヒト抗体(100%ヒト抗体)

である。