SARS-CoV-2 宿主への侵入経路と形状等

2019年12月(10月説もある)湖北省武漢で拡がった新型コロナウィルス遺伝子の全塩基配列を解析すると、SARS-CoVとの相同性が約80%、コウモリSARS様コロナウィルスとの相同性が85~88%であることが認められた。

このことから今回の新型コロナウィルスはコウモリ由来のウィルスと考えられ、国際ウィルス分類委員会によりSARS-CoV-2と命名された。そのウィルスが惹き起こす疾患であることから、国際獣疫事務局国連食糧農業機関との合意に基づき、WHOはCOVID-19(corona-virus-disease-2019)なる名称を付けた。

当初中国当局武漢ウィルスと呼んでいたのでこの呼び名の方が分かりやすいと思うが武漢ウィルスと呼ぶことは今では差別になるらしい。従ってWHOはCOVID-19なる、かの国に忖度したかのような気の利いた名称を付けた。

今やこのウィルスは世界200国近くにまで拡散し、感染者1千4百万人以上、死亡者60万人を超え、更に拡大中だ。アフリカ等未感染地域にも拡がると、恐らく感染者は2千万人或いはそれ以上となり、第一次世界大戦中に起ったスペイン風邪以来のパンデミックとなる可能性もある。

WHOが此れに対して行ったことは、COVID-19という名称を付けたこと、パンデミック宣言を操作したこと、原因究明及び感染源を隠蔽したことだった。7月中国はWHOの調査を受けることを承諾した。既に発生から7カ月以上経過している。何か出てくるはずもない。発表されたとしても中国の意のままの結果になるだろう。

 

重症率20%、軽症、無症状率80%の絶妙な配合比率は致死率5%近くという、相応の恐怖感を与えつつ  人知を超え近年の進化した医療体制を嘲笑うかの如く粛然として拡大して行く。

しかも中国のあるデータによれば獲得中和免疫の80%が2~3カ月で消失するという。

これが事実なら感染は何回でも起こり得るということだ。

AIを駆使したジョンズ・ホプキンス大学のデータによれば7月18日時点での世界の感染者数は上記のように1400万人を超え、世界人口77億人の約0.2%弱が感染していることになる。

死者数は60万人を超え、感染者に対する致死率は4.3%になる。これはRT-PCRを行った結果のデータであろうから実際の感染者、死亡者数は共にこの数値を超えているものと思われる。

東京の人口は1400万人、7月18日時点での感染者数は8933人(0.064%)、感染者数に対する死亡者は326人(3.6%)。

これを仮にジョンズホプキンス大学の感染率に当て嵌めてみると感染者は人口の0.2%弱であるから28.000人、感染者に対する致死率は4.3%であるから1.204人となる。現時点では東京はJH大学の数値の1/3の感染者数となっているがこれを超えるのは時間の問題だろう。

 

人口約1000万人のスウェーデンは、ある程度のソーシャルディスタンスは取りながら医療崩壊を防ぐため、ほぼ何もしないという対策を執った。マスクも付けず、店舗の閉鎖もない。

ロックダウンは感染を先伸ばしするだけに過ぎず、感染防御としての証拠はないとして行わなかった。これは獲得免疫対策を取っているわけではなく、あくまでも医療崩壊を防ぐことに重きを置く対策だった。スウェーデンの人口密度はかなり低く、一人暮らしも多いので感染拡大のリスクは元々条件的に少ないと云える。この結果、7月時点でおよその感染者73,000人(感染率0.73%)、死亡者5400人(感染者に対する致死率7.4%)まで達した後にようやく新規感染者がゼロになった。

ロックダウンしたイタリア、スペイン、フランス、イギリス等が軒並み致死率十数%を超えていることを考えればスウェーデン方式の有効性は十分検討に値するかも知れない。

 

東京も緊急事態宣言終了後はスウェーデンと同様の暮らし振りだが、人口密度はスウェーデンより圧倒的に高い。若者は軽症もしくは無症状が多いといわれているが致死率の世界標準(東京は少ないが日本全体では4.3%)を保ちながら、緊急事態宣言終了後、感染者の拡大が続いている。これらを考慮すれば一定の期間が経れば日本もスウェーデンと同等或いはそれ以上の感染者、死亡者が出る可能性もある。あくまでも東京をスウェーデンに比べた数値であるが感染者0.73%で東京102.200人(スウェーデンは約0.73%で73.000人)、感染者のうち7.4%が死亡するとすれば東京7.563人(スウェーデンは約7.4%で5400人)となる。

 

アメリカでは人口の1% の300万人以上が感染し、死者は13万人、致死率は4.3%。

これを日本に当て嵌めれば感染者は126万人死者は5万4千人。東京では感染者14万人、死者6千人となる。

東京の感染者率0.064%は今のところ低いが、感染者は今後増えて行くと思われる。問題はやはり医療崩壊が起こるかどうかに係っているが、感染者が増えれば、重症者も増えて来るだろう。それに対して医療従事者も含め医療資源はそう簡単には増えない。また医療従事者の感染が増えれば医療崩壊が起る。迫り来る危機を乗り越えられるか。危機は今そこにあると考えておくべきかも知れない。

 

コロナウィルスの種類

ヒトに感染するコロナウィルスは現時点で

通常の風邪症候群を惹き起こす4種類と

一定程度の致死率を齎らす3種類がある。

その3種類の一つがSARS-COV1、発生当時は勿論COV-1は付いていない。 

Severe(重症)Acute (急性)Respiratory( 呼吸器) Syndrome(症候群)は中国広東省に起源を発し2002年11月の症例に始まり(中国は公表せず)、32の地域と国にわたり8000人を超える症例が報告され、約770人が死亡した。この致死率約9%以上の重症非定型性肺炎は台湾の症例を最後に2003年7月WHOにより終息宣言がなされた。

(台湾は今回このSARS-CoV-2においてCoV-1の経験を踏まえ、政府の迅速な対応により人口2000万、比較的人口密度も高い中で感染者451人、死者7人、現在感染者0という世界が驚嘆すべき成果を示した)

 

二つ目がMiddle East(中東)Respiratory(呼吸器)Syndrome(症候群)所謂MERS-CoVで、ヒトコブラクダ保有宿主(ラクダはヒトとコウモリの中間宿主とも云われている)と考えられ2012年9月にサウジアラビアで最初の報告があり、感染者は欧州、中東、アフリカ、韓国、中国等世界27カ国に及び2019年現在、2500例の症例と850人の死亡者が報告されている。致死率約35%の重症非定型性肺炎を起こすこのウイルスの終息宣言は未だなされていない。

 

三つ目が今回のSARS-CoV-2である。CoV-2の気温、湿度等環境要因及び人種間の遺伝的要因は未だ不明のままである。

 

ウィルスはヒトが持つ特定の受容体に取り付いて感染する。SARS-CoV1、CoV2の受容体ACE2(angiotensin-converting- enzaime 2)はレニン・アンジオテンシン系において発現する酵素であり、肺・心臓・腎臓など全身に存在する。アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡに変換し血管を収縮させるACEとは類似の構造体であるがACE2はアンジオテンシンⅡを分解する酵素でACEにやや拮抗する活性を有するようだ。しかしながらSARS-CoV2の感染により酵素活性が低下し、重篤化した場合サイトカインストームを惹き起こす可能性が考えられるという。

 

因みにMERS-CoVの受容体は DPP(depedidyl-peptidase)-4である。これは腸上皮細胞から分泌されるセリンプロテアーゼでインクレチンを分解し、血糖を上昇させる酵素として知られているが、細胞膜中や血液中にも存在する。

 

ウィルスが吸着する受容体(酵素)を宿主が持っているのは多分に宿命的なものだろう。これ等の酵素はヒトに対するそれ自身の活性を妨げるものではないが、ウィルスはこれ等の受容体を利用して、細胞内に侵入する。ウィルス(鍵)と鍵穴(受容体)は避けることの出来ない不可分の関係にあると云える。

 

(コロナウィルスの形状と感染)

球形の多形成ウィルスであり、大きさは平均すれば約100nm(1nmは1μmの千分の1で1μmは1mmの千分の1であるから100nmは1mmの1万分の1にあたる)、細菌であるブドウ球菌の大きさが凡そ1μmであり1mmの千分の1であるからコロナウィルスはブドウ球菌の約十分の1の大きさになる。ゲノムサイズは30kb(kilo baces)、3万塩基でRNAウィルスのなかでは比較的大きい。

 

ウィルスは遺伝子5%、その遺伝子を守るように覆うコート蛋白質及び他数種の蛋白質95%からなるカプシドで成り立っている。更にそのカプシドを包み込むエンベロープ(脂質膜)の有るものと無いものがある。自らは増殖せず、何処に潜んで居るかは分からないがこの形状を保っていれば、宿主の受容体に取付き感染を起こす可能性がある。

SARS-CoV-2はエンベロープ(脂質膜)を持ち、ここから棘のようなS(スパイク)蛋白が突き出ている。この形状がギリシャ語のコロネー、ラテン語のコロナ(王冠)の様で、太陽のコロナに似ていることからコロナウィルスと名付けられた。

遺伝子は無分節の1本鎖+鎖RNAで、エンベロープにはスパイク蛋白(S)、膜蛋白質(M)、エンベロープ蛋白質(E)があり、ゲノム上にはヌクレオカプシド蛋白(N)がある。

 

<宿主のへの侵入と出芽>

  • ウィルスのスパイク蛋白(S)が宿主のACE2受容体に取り付く
  • 宿主細胞膜上にあるセリンプロテアーゼTMPRSS2によりS蛋白の形状が変形し、

         侵入したウイルスのエンベロープと宿主 小胞体との融合がおこる 

  • 融合、脱殻によりゲノムが宿主細胞質中に放出される
  • ゲノムを複製する酵素RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)が宿主のリボソームを利用し合成される
  • RdRpはウィルスに必要な蛋白質合成のためゲノムRNAの相補鎖である-鎖RNAを合成する
  • この-鎖RNAを鋳型として複数の+鎖RNAを作りウィルスに必要な各種蛋白質(S).(M).(E)を合成する
  • mRNAがリボソームと結合し、カプシド蛋白質(N)が作られる。(N)はゲノムRNA

      に組込まれ宿主の小胞体に運ばれる         

  • 小胞体では(N)を包み込むように小胞体膜が切取られカプシド、エンベロープが組

         立てられウイルスが次々に複製される

  • 増殖したウィルスは小胞体からゴルジ体を経由して細胞外に出芽する

         宿主細胞は破壊される

 

治療薬について

<レムデシビル>  

現在COVID-19の治療薬として日本で承認されたものはアメリカギリアドサイエンシズ社のレムデシビル(ベクルリー点滴静注液)のみであるが、これは元々エボラ出血熱、マールブルグ出血熱の治療薬として開発されつつあったものだ。いずれも原因ウィルスはー鎖ではあるが1本鎖RNAウィルスであり、RNAウィルス共通の酵素RdRpを持つ。エボラウィルスやマールブルグウィルスに対する効果は未確定のようだがRdRpを阻害することから、理論上COVID-19にも効果があるとされアメリカで緊急使用の認可が下りた。正式承認が下りたわけではないが、これに基づき日本でも緊急承認された。

人工呼吸器若しくはECMOが必要とされる重症患者のみに使用される。

 

<ファビピラビル>

アビガンは富山化学か開発した古い薬であり、涙ぐましい努力によってここまで生き延びてきた。開発当初の研究者チームは10人足らず。開発コードは忘れもしないT-705であった。しかし当時抗インフルエンザ薬としてオセルタミビル(タミフル)やザナミビル(リレンザ)等のノイラミダーゼ阻害薬が発売されており新規医薬品の参入は困難な状況にあり開発は一旦中止された。

2005年アジアで猛威を振るった鳥インフルエンザH5N1にT-705が効果があることが確認されたが患者数も少なく、研究継続は再び行き詰まった。2008年富士フィルム富山化学を買収した頃、作用機序のRdRp阻害がアメリカで注目された。バイオテロ対策用にである。

日本においても2014年他薬で効果が認められないインフルエンザに限り使用することで承認を得た。剤型は錠剤で作用機序はレムデシビル同様伸長中のウィルスRNAが間違ってアビガンを取り込むことでRdRpの活性を抑えることによる。エボラ出血熱にも使われある程度の効果を得たとの報告がある。動物実験での催奇形性が問題となっているようだが、これは始めから分かっていることだから相当する患者は避ければよい。また動物実験精子の減少が認められたがヒトでは確認されていない。副作用として尿酸値の上昇が認められる以外重大な副作用は確認されていない。あくまでも現時点でのことであるが。

 

<ナファモスタット>

フサンとして1986年以来、急性膵炎やDIC治療薬として古くから使用されている蛋白合成阻害薬で点滴静注で使用される。

東京大学医科学研究所でSARS-CoV2のウィルススパイク蛋白とTMPRSS2とが融合する

初期段階においてTMPRSS2の活性を濃度依存的に阻害することが確認された。

 

<トシリズマブ>遺伝子組換え

アクテムラはヒト化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体で抗リウマチ治療薬として使用されている。皮下注と点滴静注がある。

COVID-19においてウィルスの増殖が拡大すると、本来は炎症を抑制する生理活性蛋白であるインターロイキン-6等のサイトカインが過剰に産生され、サイトカインの暴走によるサイトカインストームが誘発される。これにより多臓器不全を起こし死にいたる。アクテムラは過剰産生されたインターロイキンを抑える作用がある。

 

その他既存薬の有効使用、新薬の開発が世界中で行われている。

 

<ワクチンの開発>

ワクチンはこれまでウィルスを不活化、弱毒化したものが使用されているが、今回初めてウィルスを用いない、従って副反応も少ないと云われている遺伝子ワクチンの開発が実用化されつつある。DNA或いはRNAワクチンであり、ウィルスのスパイク蛋白をターゲットにした抗体産生を目的としている。

DNAの1000倍変異があるとされるRNAワクチンの開発はかなりの困難が予想されるが、成功すれば画期的なものとなるだろう。

 

感染者数、致死率等は2020年7/18日現在のものであり数値は刻々と変化、増大している。喧々囂々議論は続くが結論は出ない。

1mmの1万分の1の極微のものの振舞いにさてどう対処出来るか。