葉蔵とは太宰治の小説
人間失格の主人公である。
有名な第一の手記の書き出し
「恥の多い生涯を送って来ました」
は余りにも有名な文章で想わず自身の
人生にもしっくり当て嵌まるような気がして感嘆してしまった。夢中になり一気に読んだ記憶がある。以下はその粗筋である。
葉蔵は人間というものがわからない。
そこでお道化を考え付き、他人を笑わせることで生きる術を得ようとして次第にその完成度は増して行くが、こともあろうに少し知恵遅れの同級生竹一に“その術”を木端微塵に見破られる。彼を手懐ける必要性に駆られた葉蔵は耳だれをおこした竹一を自宅に連れて帰り、自分の膝の上に乗せ念入りに耳掃除をしてやったりして竹一のご機嫌取りをする。
その時「お前はきっと女に惚れられるよ」
と竹一に言われる。
葉蔵は女を虜にする何かを持っているようだ。
青森から東京へ出た葉蔵は本物の都会の与太者堀木と近づきとなり酒と女と左翼思想を知る。学校には殆ど行かずそれらにのめり込んでゆく日々だった。
銀座のカフェの女給(亭主持ち)に酒を飲ませて貰い一夜を共にする。その時はそれで終るが、堀木が現れ銀座で飲み明かそうと語り、話が纏まる。
二人ともほぼ一文無しでカフェに入り、再びその女給の世話になる。酔いつぶれた葉蔵が目覚めた時はその女が居た。明くる日、侘しさを漂わせた女の口から「死」という言葉が出て葉蔵もそれに同意し二人で鎌倉の海へ飛び込むことを決める。
葉蔵がその女と出会ってから僅か3日後の出来事だった。
結果女は死ぬが葉蔵は助かる。
自殺幇助罪に問われた葉蔵は父親の知合いに身元保証人となってもらい、その知合いの家に引き取られる。
高等学校も追放され、他人の監視下で過ごすことになったが、それに耐えられなくなった葉蔵は堀木の家に向かう。
そこで堀木を訪ねてきた女記者と出会い、その女記者と高円寺の女のアパートで1週間程同棲する。
女は離婚していて子持ちであった。
ある日、飲んで帰ってきた葉蔵が部屋に入ろうとすると親子の会話が聞こえ、この人達は幸せなんだと思い込むと部屋に入るのが嫌になり、そのまま京橋のバーのマダムの処に転がり込む。
男妾のような生活をして1年程暮らすが、近所の煙草屋のヨシちゃんと知合い、ヨシちゃんに“酒をやめて”と言われる。
「やめたら結婚してくれるかい」と葉蔵が
冗談混じりで言うとヨシちゃんは「モチ」
よと答えてくれた。葉蔵は疑うことを知らないヨシちゃんと一緒になり、春になったら二人で自転車に乗り青葉の滝を見に行こうと思い結婚する。
隅田川近くにアパートを借り二人で映画を見に行ったり、喫茶店に入ったり幸せな暮らしが訪れ、職業になりかけていた漫画家の仕事にも精を出す。
そうしている内、堀木が現れ夜納涼の宴を催そうということになった。アパートの屋上で宴を催している時、ふと下に降りて行った時ヨシちゃんが漫画の代金を置いて行く男と情を交えている場面を葉蔵は見てしまう。
葉蔵は再び酒の世界に溺れ、銀座裏を飲み歩く日々を送っていた時喀血する。薬局に飛び込んだ葉蔵は、そこの奥さんと顔を見合せ互いに涙する。奥さんは葉蔵のため色々なビタミン剤を取り揃えてくれた。
奥さんはどうしてもお酒がやめられないときはこれを使ってと言って特別な注射モルヒネを出してくれる。その奥さんとも仲良くなり脅しすかししながらモルヒネを手に入れる。やがて葉蔵はモルヒネ中毒となり精神病棟に送られ、癈人同様に成り果てる。
見かねた故郷の長兄が東京を離れ田舎で療養生活を送るべく手配してくれた。
その療養生活でも付き添いのオバさんと変な関係になる。
“ 今自分には、幸福も不幸もありません。
ただいっさいは過ぎて行きます。” と小説は締め括られる。
小説はほゞ自伝であるが太宰本人は5回自殺を企てている。そのうち2回は太宰1人で行い、後3回は心中である。
心中の1回目は小説にあるように鎌倉で入水し女性だけ死亡、2回目はカルモチン服薬で二人とも未遂に終る。3回目に太宰本人も死ぬことになるのであるが、驚くべきことに死の前年には師でもありさんざん世話になった井伏鱒二の紹介で結婚した妻との間に3人目の子が生まれ、また愛人との間にも子供が生まれている。
玉川で一緒に入水した女は、会ってまだ1年足らずの前記の愛人とは別の太宰の熱烈なファンの女性であった。
此処までくると余りに破茶滅茶で笑ってしまう。それにしても、よくもまあ女にモテたものだと感心してしまう。