ゴートゥートラベル& 帝国ホテル

都心に住みながら都内のホテルへゴートゥートラベルを利用して宿泊しようなど想ってもみなかった。しかも今程多くはないものの、ウィルス感染者が減っているわけではなかったし、この企画が全国的に感染を拡げたという批判もあった。

ハルちゃんの強い要望でもなければ加瀬は、この企画を利用することなど考えもしなかったであろう。彼女の希望は例えば帝国ホテルのような格式あるホテルへ泊まってみたいと云うことだった。ハルちゃんは東京で暮らし始めてから15年以上になるが、ラウンジでお茶をしたことがある位で、帝国ホテルに宿泊したことはないという。感染の不安はあったが、コロナ禍のなかで自由な外出を制限せざるを得ない昨今、偶にはハルちゃんと、庶民のささやかな贅沢とも云えるような機会を少しでも持ちたいと思っていたところでもあったので加瀬もハルちゃんの計画案に同意した。

帝国ホテル以外にも色々なホテルをリストアップしたが、結局ハルちゃんは帝国ホテルを希望した。すぐ満室になるため、予約は急がねばならなかった。毎日部屋が埋まって行くからだ。10月中旬に予約サイトを検索したところ、幸い11月の2連休に空室があることを見つけ宿泊予約をした。

通常宿泊の40%オフで、8000円の食事券が付くかなりお得なプランだ。

 

その後念のためホテルに電話し、感染対策についてと、こちらで用意するものなどの確認を行った。それによればタワー館の方は感染対策上閉館しているとのことであったから、予約自体はタワー館での予約だが場合によっては、タワー館の価格で本館へ宿泊することがあるということであった。価格は勿論本館の方が高い。また、予約した時点でゴートゥーの企画対象となっており、当方で用意するものは特にないとのことだった。通常の予約と変わらず、存外簡単なものであった。

今回のブログは特に何を考えるでもなく時間の経過のみを追って行くことにした。

 

<ホテル正面>
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<ハルちゃんとは1階のランデブーラウンジで待ち合わせをし、昼近くだったのでサンドウィッチと珈琲をオーダーした。サンドウィッチ2250円、珈琲1杯1430円と値段はそれなりに高い>
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食事が終わってから、日比谷か銀座で映画を観る予定でいた。チェックインが14時だと記憶していたので、荷物だけホテルに預けておこうとカウンターに行ったところ、もう既にお部屋の準備が出来ているのでご案内出来ますとのことだった。これには感激したし、やはりタワー館は閉鎖されており本館の案内になるというから増々上々だった。銀座側か皇居側かを選べるとのことだったので銀座側を希望し、13時頃には部屋に入った。

<ホテルから銀座方面。天気晴朗>

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少し休んでから映画を観に行くことにした。ハルちゃんは加瀬の好みをある程度知っていたのだろう、加瀬が観たいと思っていた映画を何本か既にLINEで案内してくれていた。

それはオックスフォード英語大事典作成をテーマにした「博士と狂人」と、以前読んで気に入っていた直木賞受賞作家桜木紫乃原作の「ホテルローヤル」だった。但し、ディナーが18時からなので、それ迄にはホテルに戻らなければならない。「博士と狂人」は銀座で上映していたが満員で入場不可だった。直ちにミッドタウン日比谷に引き返し、「ホテルーローヤル」を見ようとしたが時間的にディナータイムと重なってしまうためこれも諦め、予定していなかった其れ程見たくもない映画(タイトルは忘れたがグリコ、森永事件扱ったもの)を観た。

がハルちゃんと映画を観ればよいので加瀬にとって映画の良し悪しは余り問題ではなかった。

 

<ミッドタウン日比谷>

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<映画を観終わってからディナータイムまではミッドタウンの夜景を楽しんだ>

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<ディナータイム。フルコースは体力的に無理なのでプリフィックスディナーを予約しておいた。

ステーキコースで、ワイン、デザート、珈琲又は紅茶付である。ハルちゃんはここの自慢のデザートの一つである有名なパンケーキを食べたことがないというのでデザートはそれにするよう勧めた>


<ワインで乾杯>
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<前菜後のステーキ。量は多かった>
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<パンケーキミニセット>
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<アイスクリームとシャーベットセット>
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テナントレストランを除き、今回パークサイドダイナーとラウンジ、レ・セゾン以外の直営レストランは感染対策で閉鎖されていた。

 

<銀座の夜景>

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ハルちゃんは仕事に於ても、趣味のジョギングにしても万事に自らを律するストイックな性格なのだが、時々突拍子もないことを言い出し人を驚かす。

数週間前「私セーラー服が着てみたい」というご託宣があった。加瀬は「何だって!」とその言葉に耳を疑った。「それで着たまま後ろから犯して欲しい」...と宣うた。加瀬は何事にも余り動じない質なのだがハルちゃんの、この過激で大胆な発言には流石に辛抱溜まらず脳天を電流が駆け巡った。

 

谷崎潤一郎の傑作小説〈痴人の愛〉や〈瘋癲老人日記〉が加瀬の頭をよぎった。小説ではナオミや颯子によって、主人公が散々翻弄されるのだが、それらの主人公と同様に加瀬もハルちゃんに弄ばれたいと想った。加えてナオミや颯子のように奔放ではない、ストイックなハルちゃんが加瀬をどのように翻弄して行くのか、その経過を想像するだけでも只ならぬ興奮を覚えた。疼々として、蠢く欲望は抑え難く、加瀬はさっそく行動に移した。

時にハルちゃん50歳、加瀬65歳の青春真っ盛りなのだ。

通販ショップには大抵のものは揃っている。セーラー服などはごく普通の注文品なのだろう。2、3日で届いた。これを帝国ホテルで着て記念写真を撮るつもりだった。かくしてホテルにセーラー服を持参したのだが、残念なことにワインの飲み過ぎと食事による胃の凭れで思うように身体が動かず部屋に入った途端にベッドに横になってしまった。ハルちゃんも体調不良を訴えた。軽い膀胱炎様症状を呈している様子だった。

二人で暫く横になり、それから大きな浴槽に入り、入浴後はバスローブに着換え、又横になり眠ったような眠らないような妙な気分のまま過ごした。但し風呂上りにハルちゃんが一度セーラー服を着たことだけは覚えている。ハルちゃんに「こっちへ来て、セーラー服を見て」と言われ口づけを交わした。その夜は二人共不調でそれ以上進展せず、結局夜景を見ただけで終わった。もう一つハルちゃんの希望があった。それは明日の朝、皇居の周りをジョギングすることだった。加瀬はハルちゃんのカモシカ(羚羊)のような細く長い脚の躍動を直に見たかったのだが、ハルちゃんの体調が思わしくないのでこれも実現出来なかった。朧気なセーラー服姿を見たのみで終わったことと、ジョギングする脚の躍動感を観察出来なかったことは加瀬にとって大いなる青春の喪失であった。

 

<翌朝のなだ万の朝食>
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翌日チェックアウトしてから、日比谷公園を散策した。天候のせいか昨年程ではなかったがまずまずの紅葉だった。

 

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<国際フォーラムの中にあるイタリアンレストランでのランチ>

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ハルちゃんは、今のコロナ騒ぎが落ち着いたら温泉に行きたいと言った。加瀬も同感だったけれど、暖かくなったら感染状態が落ち着く可能性はあるものの先のことは分からないので「行けるかな?」と疑念を呈したところ「行けるよ!」とハルちゃんに叱咤されてしまった。

さてどこの温泉地にしようか…

日比谷駅への階段を降りるハルちゃんを見送った後、こういうささやかな幸福感がいつ迄も続くようにと加瀬は思った。柄にもないことを考えた己を憫笑しつつも、秋深まる空の下、有楽町駅に向かう加瀬の足取りは華やいだ気分に相俟って頗る軽やかであった。