九品仏は世田谷区奥沢にある浄土宗の寺院で正式名を九品山唯在念佛院淨眞寺と云う。
延宝6年(1678年)珂碩上人が徳川幕府より奥沢城跡地を賜り開山した。
九躰の阿弥陀佛如来像を安置していることから一般に九品仏と呼称されている。
境内敷地は三万六千坪で総門、閻魔堂、山門、鐘楼堂、龍護殿(本堂)、開山堂、三仏堂等の七堂伽藍を備えた日本でも数少ない寺院の一つである。
本堂は西向きに建ち、本堂に安置されている釈迦如来像は、相対する三仏堂に安置されている阿弥陀如来像がある西方浄土、即ち極楽浄土を見つめている。
今回は上野から銀座線に乗り渋谷へ出て東急田園都市線に乗り換えるコースをとった。二子玉川駅で更に東急大井町線に乗り換えると九品仏は四つ目の駅に当たる。
<渋谷駅前>
<二子玉川のホーム>
<ホームから見た多摩川>
<九品仏駅>
駅を降りて左に曲がると間もなく参道がある。総門を入って目にしたのは今を盛りの
艶やかなばかりの紅葉であった。
<参道入口>
<参道>
<総門>
総門を潜れば、間もなく閻魔堂が目に入る。
令和元年に建て替えられた閻魔堂は八月に
落慶法要が行われ、未だ木の香りも芳しい。
堂前には三途の川があり、閻魔堂に詣でるにはそこに架けられた石の橋を渡る。
仏道に拠れば人は鬼籍にいりて尚、ある期間旅を続けなければならない。此岸と彼岸の間を彷徨う所謂冥途の旅である。(宗派に由ってはこの限りではない、また後述する賽の河原は民間信仰、十王信仰はヤマ伝説に依るもので仏説とは必ずしも合致しない)
冥途の旅は星月の光さえ無い、暗く険しい死出の山路に始まる。
辛く孤独な旅をひたすら歩くこと約八百里(約3200km、日本の最北端から最南端までの距離に相当する)、
七日目にして漸く冥途の旅の観光名所、賽の河原に辿り着く。
ここに到るまで旅人が口にするのは煙香の匂いのみである。従ってこの間遺族は線香
を焚くことを絶やしてはならない。
賽の河原の目前には滔々と流れる大河があり、聞くも哀れ、見るも哀れな光景がを旅人を捉える。
十にも満たない幼児(おさなご)達が、親より先に身罷った咎にて、日がな河原の石を持ち運び石塔を作っている。手足は石にて擦れ爛れ、指より出ずる血の滴(しずく)は躰を朱に染めなして、雨露凌ぐ住家もなく…
「一重積んでは父の為、二重積んでは母の為...」
このように毎日石を積むことを繰り返すが、日も入り相いの頃には獄卒の鬼が現れて
幼児を睨みつけ「汝等の積む塔は歪みがちにて見苦しく、かくて功徳に成り難しと」
鐵の杖で塔を残らず打ち毀す。
石を積んでは崩され、又積んでは崩されいつ果てることもない。
しかしながら旅人はこの無情な光景を云々する暇(いとま)はない。十王の一人秦広王による冥途の旅の最初の審判(主に殺生について)を受けなければならないからだ。
此処において生前の業により渡るべき三途の川が決められる(初七日)。
善行を成した者は橋を渡ることが出来るが地獄、畜生、餓鬼の三悪道に堕ちた者は川に入る。罪浅き者は浅瀬を、罪深き者は毒蛇悪龍が蜷局(とぐろ)を巻く足も届かぬ深い濁流を泳ぎ切らなければならない。漸くしてこの川を渡り切ったとき、もはや娑婆には戻れない。
亡者は待ち受けていた奪衣婆(だつえば)により身包み剥がされる。
剥ぎ取られた衣服は懸衣翁(けんねいおう)により衣領樹(えりょうじゅ)の枝に懸けられ枝の撓り具合によって罪の軽重が計られる。亡者は素裸で尚も旅を続け、次々と裁きを受ける。
二七目(14日目)には初江王により偸盗の罪
三七目(21日目)には宋帝王による邪淫の業
四七目(28日目)には五官王により妄語の癖
五七目(35日目)に遂に閻魔王による裁きが行われる。
閻魔王は亡者の前世での行いを洗いざら
い映し出す浄頗梨の鏡と閻魔帳を照らし
合わせ亡者の行くべき六道を決定する。
この閻魔王の裁き(最終決定)により、
六七目(42日目)には変成王が亡者が生まれ
変わる場所を
七七目(49日目)には泰山王が亡者が生まれ
変わる条件を決定する。
かくして冥土の旅は終り、後は百箇日、一周忌、三週忌とそれぞれの王による裁きを受け、如何なる極悪人でもやがては極楽往生が出来るという。
但し、立証した者はいないので真偽の程は定かではない。
<九品仏閻魔堂附近の紅葉>
<山門(仁王門)附近の紅葉>
<そのほかの境内域内紅葉>
寺域全体が極楽浄土の様相に象られ、弥陀三六(さぶろく)の願いに即して、境内三万六千坪、三仏堂各堂丸柱三十六柱、本堂欅三十六柱、上品堂と龍護殿間三十六間というように細部にわたり往生に因んだ数字が当て嵌められている。
まさに極楽浄土に相応しい見事な紅葉だったと云えよう。
九品仏駅の次は自由が丘駅だが大井町線が開通するまではここを九品仏前駅と云っていた。自由が丘の次の次の駅は大岡山駅でありここは駅上に東急病院一般病床数135を有する斬新な駅舎である。
大岡山駅前には本館に到る両側の桜並木が美しい理系の雄、東京工業大学の大岡山キャンパスが拡がる。
ここから東急目黒線を経て南北線に直通するルートで帰途に就いた。
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