フォンヴィレブランド因子

第2次世界大戦中アメリカでは、傷病兵の外傷による出血性ショックに血漿成分アルブミンの輸血が有効であることがわかり、それを戦場に送るべく小型、軽量化への製剤化技術が進められた。

この要請に従い、ハーバード大学のコーンは血漿蛋白分画法を開発し、血漿アルブミン分画の製剤化に成功した。こうして戦場に送られたアルブミン製剤の輸血により、外傷で出血した多くの傷病兵の命が救われた。

アルブミンが血管内で水分を保持し、血液の浸透圧を維持するのである。

大戦後この分画法は更なる発展を遂げ、それぞれの血漿蛋白因子の分子構造が明らかとなり、血小板数が正常であるにも関わらずvWD患者の出血が延長するのはある蛋白因子の不足が原因であることが解明された。

その因子はvWD同様発見者の名前をとり

フォンヴィレブランド因子(以後vWF)と命名された。

vWFは主に血管内皮細胞で、第Ⅷ因子は肝細胞で産生され共に血中に放出され結合し、

複合体を形成する。これにより遊離の状態では不安定である第Ⅷ因子は安定化する。

vWDで第Ⅷ因子が低下するのはvWFの

不足により第Ⅷ因子との結合が十分でないことが原因であった。一方vWFは遊離の状態でも安定しており、このため血友病A患者においては血小板粘着能は正常である。

vWFは血小板膜上の糖蛋白Ⅰb・Ⅸ複合体と結合し、コラーゲン繊維との橋渡しをすることで血小板の粘着作用をもたらす。

遺伝的にvWFが不足、欠乏すれば血栓形成が遅延するのは血小板とコラーゲン繊維が

結び付かないためである。

この因子が無ければ

血小板数は正常でも粘着が起こらない。

 

また血管は狭窄などにより、血漿成分に歪みが生じ、ずり応力を惹き起こす。

vWFはその歪みにより血小板膜上に露呈した糖蛋白Ⅱb・Ⅲa複合体とも結合し血小板同士を繋げ血小板凝集をもたらす。

凝集によりADP、TXA2等を放出し不可逆的な

二次凝集へ進み、第Ⅷ因子と結合することで第Ⅷ因子を安定させ、凝固系血栓形成をも促進させる。

医師フォンヴィレブランドがその病態を

報告してから約60年の歳月を経てvWFの

正体がようやく解明されたのである。

 

 (青木延雄著  血栓の話 参照)

 

超越数とは?

循環しない小数で無理数であるうえに、

いかなる整数系の代数方程式をとってきても

その解とはなり得ない数。

例えばネイピア数 e=2.7182...

             円周率        π=3.1415...

まだ数える程しか見つかっていないが、

カントールはその見つかっていない超越数

無限個あるという。代数的数全体と自然数

全体は1:1対応を付けることが出来る。

実数全体の無限は連続体の濃度であるから

自然数の濃度より大きい。つまり代数的数全体より圧倒的に大きい、従って実数全体から

代数的数を取り去っても、まだ無限個の数

が残ることから超越数は無限個あり、殆んど

全ての実数は超越数である。

カントールのこの証明もまた、数学界に大きな衝撃を与えた。

 

連続体仮説

‘可算濃度より大きく、連続体濃度より

小さい濃度は存在するか’

当時数学界をリードしていたゲッティンゲン大学ヒルベルトが1900年パリ国際数学者

会議で提起した23の問題の第1番に取り上げられた連続体仮説

カントールは存在しないと仮定した。

可算濃度とは自然数の無限集合、連続体濃度とは実数の無限集合。カントールは混乱を

避けるため、集合を大きさではなく濃度で表した。実数の無限集合の方が自然数の無限集合より大きいことは感覚的に理解出来る。

自然数は実数の一部に過ぎないから。

しかし、これを証明するのは難しい。

と言うより無限そのものに誰も近付かなかったのだから。

カントールはこれを‘対角線論法’という方法

を用いて証明した。実数全体どころか0以上

1未満の範囲でも証明できるという。

自然数に対して0<α<1の範囲の実数が1:1

対応出来ると仮定する。自然数は上から下

に無限に続く...実数は左から右へ無限に

続く...

自然数:実数0<α<1

     1     :  0.3426・・・

     2     :  0.6287・・・・

     3     :  0.5948・・・・

     4     :  0.4371・・・・

    ↓    :      →

上から対角線に沿って3,2,4,1を取り出し何らかの規則性を持たせて数値を変える。

例えば全て1を加えて小数点で表すと

0.4352・・・・となる。

こうして作られた無限小数は上記の対応表

には存在しない。なぜなら自然数1に対応

する数とは小数第1位が、2に対しては小数

第2位が、3に対しては小数第3位が、4に

対しては小数第4位が異なるから。

つまり自然数と1:1対応していないことに

なる。これは上記の仮定と矛盾するから

自然数の無限集合より実数の無限集合の

方が大きいことになる。では確かにそうで

あったとして、その間に集合はあるのか?

これが連続体仮説問題。

カントール自身はこの問題を証明出来なかったが、1940年クルト・ゲーデルが集合を扱う

ための標準とされるツェルメロ・フレンケル

公理系が無矛盾であるならば連続体仮説

公理系に加えても無矛盾であること、更に

その23年後ポール・コーエンはゲーデルとは逆に、ツェルメロ・フレンケル公理系に選択公理連続体仮説の否定を加えても

無矛盾であることを証明した。

要するに証明も反証も出来ない命題で

あるということでこの問題は解決した。

数学の本質はその自由性にあり

無限を切り開いたカントールの言葉である。

パラドックスの壁を前にして誰もが立ちすくみ、踵を返さざるを得なかった無限に果敢に

立ち向かい20世紀数学に多大な影響を及ぼしたカントール。しかしその代償は大きく、

当時の伝統的な数学界には全く受け入れら

れなかったのみか、やがては精神を病み

死に至ってしまう。

駅から放射状に延びる幾つもの路地。

クラシック音楽が流れる昔ながらのカフェ、

寂れたコインランドリー、客の居ない靴屋

手書き値札がぶら下がる洋品店、その先には

巨大なショッピングモール。

人々は行き交い、街は賑わいをみせる。

生活はどこにでもあるものだ。

埋葬

陽光が燦々と降り注ぐ、海の見える

小高い丘の中腹、Xは埋葬に心を尽くした。

荼毘に付し拾い集めた骨を埋め、墓石には

生前辣腕を奮った頭脳の足跡をそこここに

刻印した。シャベルを横たえ、腰を下ろし

汗を拭ったXはいつしか眠りについた。

夢うつつのなかで、夏の日の海辺の遠い

歓声が耳に響いてきた。