日比谷フェスティバル 狂言「梟」

2023年4/29(土) 晴れ後曇り やや風強し

 

「梟」又は流派により「梟山伏」という。

作者、成立年月日は不詳。

シテ(主役)山伏  アド(助演者)兄、弟

狂言は能に較べ、演者も2~4人と少なく、演技時間も短く、笛小鼓、大鼓も殆どない。

能の舞踊劇に対して狂言はセリフ劇と云え、人間が本質的に持っている愚かさをシニカルな笑いで表現する。


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あらすじ

 

山から帰った弟が何やら物の怪に取り憑かれた態で、祈祷やら薬やら何かと試みるも一向に回復のしるし(効果)がなく、兄は思い余って尊き山伏に加持を頼みに行く。

その山伏とは、九識の窓の前、十乗の床のほとり、瑜伽の法水を湛え、三密の月を澄ます(仏語で密教の修法により御仏と一体となる境地)尊い先達であり、一加持念じて貰えば弟のむつけき態もとれるであろうと思い至ったからである。

山伏曰く「ここの処、別行ありて何処へも罷り出ぬところであったが、其方の弟の事であるなら引き受けよう、案内もうせ」と有難きお言葉であった。

山伏を自宅に案内した兄は、早速むつけき病に取り憑かれた弟を山伏の前に連れてくる。弟は白い表着(うわぎ)、頭に白い鉢巻をして、項垂れて兄に連れ出されてくる。

「弟よ、これより尊き先達に一加持お願い致せば、お前の病も本服(回復)するであろう」

山伏は弟の様子を見て

「これは、もってのほかの邪気じゃ。先ずは脈を診よう」

と弟の頭を掴み、振り回す。

「これは又不思議な脈の取ようでございますな」

山伏

「物の怪に取り憑かれたる場合は頭脈を取るのが一番じゃ」

然して弥栄(いやさか)の数珠を取り出し「ボーロン~ボロ」と祈念する。

すると弟は鳥の羽ばたきのように両手をバタつかせ、左右の腕を交互に上下させておったが、やがて諸手を挙げ「ホー、ホー」と叫び出す。

山伏驚いて曰く

「さて、今のは何としたことか梟の鳴き声にそっくりではないか」

「実は2、3日前に山に入り、その折梟の巣を壊したと話しておりました」

山伏

「それは間違いない、梟が取り憑いたに相違あるまい。然らば梟が嫌う鴉の印をふみ、"いろはにほえどちりぬるを"と唱えれば邪気は消え本服するであろう」

と鴉の印をふみ、数珠を手に再び祈念する。

「ボーロン~ボロ、ボーロン~ボロ」

と数度念じてもしるしは無く、弟はまたしても、羽ばたき様振戦を繰返し、両手を交互に動かし乍ら「ホー、ホー」と前と同じように叫び出す。

山伏は更に祈念を繰返すが一向にしるし(効果)がない。負けじと加持するが、その加持の最中に、今度は傍に座っていた兄の様子に異変が起こり、弟同様両手をバタバタさせ、左右の手を交互に上下させ乍ら、諸手を挙げ「ホー、ホー」と叫び始め、弟の邪気が乗り移った態となる。

山伏

「これは兄にも憑いた。兄も加持しなければなるまい」と兄に対しても呪文を唱える。

「ボーロン~ボロ、ボーロン~ボロ、いろはにおえど…」

すると、今度は弟の方が両手を挙げ「ホー、ホー」と奇声を発する。

兄弟の発作の間隔が次第に短く頻回となり、やがて彼等は立ち上がり弟が「ホー、ホー」、山伏が弟に祈れば、今度は兄が「ホー、ホー」と叫び出し、山伏は兄に向かって「ボーロン~ボロ、ボーロン~ボロ」と念じたかと思えば、直ぐ又弟に向かって「ボーロン~ボロ、ボーロン~ボロ」と交互に忙しなく呪文を唱える。

幾度となく繰り返すうち、遂に山伏は力尽きその場に倒れ込む。兄弟の病は一向に本服(回復)せず「ホー、ホー」と叫びながら橋掛かりを去ってゆく。

倒れ込んだ尊き先達である山伏は、暫時後ふと我に帰るとやおら両腕をばたつかせ、交互に腕を動かしながら、顔をかきむしり、やがて立ち上がり両手を挙げ奇声を発する。

「ホーホー、ホーホー」

 

 

 

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#能「葵の上」#空しい祈祷