とうきょうスカイツリー駅を降りて15分程歩くと桜橋に着く。その近くに言問亭がある。向島側、墨堤通りにあり、店に入ると3種の団子とお茶が出る。上品な団子の味も然ることながら、何気なく付いてくるこの店厳選のお茶が旨い。茶器には都鳥が描かれている。
体貌閑麗、放縦不拘と記されているように、詠が上手く自由奔放な遊び人であったようだ。この平安の色男は女漁りが過ぎ、こともあろうに摂関家の麗人にまで手を出してしまい、出世の道も遠いと考えたのか、身をえうなきものに思ひて、もとより友とする人、ひとり、ふたりして京を去り東下りした。
随分と遠くへきたものだと思いつつ、日も暮れかかる物侘びしい隅田の川辺に立った時、京では見たことの嘴と脚が赤く身体の白い
鳥が魚を啄むでいた。京では見かけぬ鳥なので、
渡守に鳥の名を聞いたところ、都鳥と言う。
そこで業平が
「名にし負はば いざ言問わん都鳥
我が思う人はありやなしやと 」
と詠ったところ、京に恋した恋しいひと
を思い、極まり皆落涙した。
元禄の頃店の祖先がこの古事に感じて、業平朝臣を祀り業平神社を建立、この辺りを言問ヶ岡と稱るに至った。四季折々の向島の自然を愛でる文人墨客や風雅の人の求めに応じ手製の団子や渋茶を提供したのが始まりと云われる。
とうきょうスカイツリー駅の旧名は業平橋駅という。
桜橋はX字形をした特異な橋梁で、隅田川唯一の歩行者専用の美しい橋であり、名の通り約1000本に及ぶ両岸の桜を眺められる。
業平の桜に寄せた詠のひとつ
「世の中に絶えて桜のなかりせば
春の心はのどけからまし」
返歌、 詠人知らず
「散ればこそいとど桜はめでたけれ
憂き世になにか久しかるべし 」
伊勢物語82段渚の院
多くが“昔男ありけり”で始まる伊勢物語の作者は不明であるが詠まれている短歌は業平のものが大部分を占める。東下りや渚の院
の他、“芥川”や“筒井筒”等名の知られる話も多い。
上記三首とも古今和歌集にも掲載されている。