現在発売されているヒトインスリンは
遺伝子工学技術がそれを実現させた。
インスリンはA鎖21個、B鎖30個の計51個のアミノ酸からなる分子量5734のポリペプチドホルモンであり、A鎖は1つのS-S結合を持ち、A鎖とB鎖は2つのS-S結合で繋がっている。ウシインスリンはヒトインスリンと3個のアミノ酸が異なり、ブタインスリンではB鎖30位のアミノ酸がアラニン、ヒトインスリンではスレオニンであり、この1ヶ所のアミノ酸が異なるのみである。
このように以前はインスリンはウシやブタの膵臓から抽出したものを使用していた。
何故ならヒトから採ることは出来ないし、
僅かなアミノ酸の違いしかないのだから。
しかし1個のアミノ酸の違いではあれ、アレルギー反応は起こり、また共結晶化する
プロインスリンを取り除くことは困難
だった。更に糖尿病患者が増加傾向にある
なか1人の患者が1年間に使用するインスリンを賄うには約70頭の豚を必要とするなど、
量的にも遠からず危機的状態の到来が予見
された。これ等の問題は1970年後半に台頭
してきた、遺伝子工学の技術的発展により
克服されて行く。ベストとバンディンクの
インスリンの発見から57年後の1978年、アメリカのベンチャー企業ジェネンテック社が
A鎖を作るDNAとA鎖を作るDNAを大腸菌プラスミドに組み入れ、その後S-S結合で組み合わせたヒトインスリンの作成に成功する。
イーライリリー社はこのジェネンテックと契約し、プロインスリンから二本鎖ヒトインスリンにする方法に切り替え、改良プラスミドを用いた大腸菌の大量培養によるヒトインスリンの生産を開始した。これにより動物由来によるアレルギー反応は激減し、製剤も安定化する。
大まかに述べれば
①ヒト細胞のDNAからインスリンを作る
遺伝子部分を制限酵素(DNAの特異的な
シークエンスを識別し2本鎖のまま切断
する酵素で、これにより遺伝子組み換え
等が可能になった)で切り取る
②大腸菌のプラスミドをやはり同様の制限
酵素で切り取る
遺伝子とプラスミドをリガーゼで結合
させる
④組み換えプラスミドを大腸菌に戻し培養
大腸菌の大きさは約1マイクロメートル、20分に
1回分裂増殖する。